摂食嚥下障害について


痴呆や、脳梗塞になった場合、いや大きな病気になったとき、
ともすれば見すごされがちなのが、口腔内の状態である。

簡単に言ってしまえば、今まで介護保険が出来るまでは
痴呆や、脳梗塞後遺症である、麻痺などが出た場合でも
口の中のことというのは、特に気にもされていませんでした。
介護といえば、排泄、入浴、食事介助
というのが3本柱でしたが、排泄のケア、入浴などをしての
辱創のケアというものは盛んに言われていましたが
食事介助に対する、口腔ケアというものについては
あまり議論されてきませんでした。

その証拠に、介護保険での認定審査の口腔内に関する項目は

たったの3項目、しかも食事介助が出来るか、
ブラッシングが出来るか?(うがいが出来れば自力で
口腔内清掃が出来ているとみなされます)
などの簡単な項目で、実際の口の中の審査はありません。

しかしここに来て介護保険がボチボチ機能し始めて
口腔内にも目が向けられるようになってきました。
これは、教科書的に、より良い介護を求めていくと
口腔内のことを抜きには語ることが出来ないということからです。

そのような背景もあり、看護師さんや介護職の方の中では
すでに口腔ケアというものが、にわかに騒がれています。
(僕も実際にとある病院で口腔ケアについて講演をしてくれと
頼まれてしたこともあり(H14年)、口腔ケアがかなり切実な問題となっているのを
実感したことがあります。)

それでは、看護師さんが本気で、口腔ケアをし始めたとしたら、、、
歯医者として、自分はその指導者になりえるのだろうか??
そのような不安もあり、摂食・嚥下障害者の口腔ケアという表題の
講演会があったので、行ってきました。
以下はその時聞いた話をまとめたものです。


これから先、日本の人口は、ある時をピークに下降していくことは
はっきりしています。それにもかかわらず、脳梗塞にかかる人は
減ることはありません。
しかも、最近は、脳梗塞で死亡する確立というものは
年々下がってきており、、、、
ということは脳梗塞の後遺症を持った方は着実に増えていく
ということになっています。
(年間10万人ずつ増えていっています。)

そこで当然問題になるのがそういう方々の介護ということになりますが
その時、口腔内のケアが本格的に出来るのは
歯科医師、歯科衛生士ということになります。

もちろん看護師、介護職職員なども口腔ケアに目覚めています。
しかし、やはり専門的な、という意味では、やはり歯科医療関係者が
1歩リードしています。(リードしていなければいけません)

専門的な口腔ケアとはいったい何かというと、
簡単に言うと、スケーリング、ブラッシング、口腔内のさまざまな部位の
様子を見ること、薬を使った口腔内ケア(ガンソウ剤や、保湿剤)
などなど。
また歯科医師の立場からは、口腔内の咀嚼機能の改善などなど
やるべきことはたくさんある、、、、
しかもこれらは、数回の治療で終了ということはなく
治療(というよりケア)し続けていかなければいけない
領域ということがいえます。

そこで、口腔内ケアや、咀嚼嚥下訓練を、してもいい患者さんと
してはまずい患者さんというものをしっかりと見極めることが必要となり
そのための知識を、歯科医師も持っておく必要がある、ということになります。


さて、どこまでの患者さんなら受け入れ可能でしょうか?
簡単に言ってしまえば、誤嚥する可能性の高い人に、(機能障害が
固定して、治る見込みが全く無いとされている人)
嚥下訓練しても、あまり意味がありません。
いや、それどころか、固形食での嚥下訓練などしてると
窒息して、責任問題になりかねません。
そういう方には、口腔ケア、口腔リハビリ、(頬のマッサージなど)
くらいにとどめておかなければなりません。

その判定基準は、すでに必ず付けられているその方の
脳後遺症の病名です。

脳卒中は脳血管疾患ですが、その中にもいろいろな分類がなされています。
ここでその詳しい分類は述べませんが
後遺症としてのこる、問題になる病名は以下の4つです

1片麻痺(一側性脳梗塞)
2球麻痺(脳幹の梗塞)
3交代性片麻痺
4両側性片麻痺(多発性脳梗塞)

ここで問題になるのは、これらの梗塞によって、
嚥下反射の部分が、障害されるかどうか?ということに尽きます。

補足

上部顔面には麻痺の症状は出ない。
下部顔面は片麻痺が出てくる。
しかし喉のあたりは半体側の脳神経支配も
少し受けるために完全には麻痺することは無い。
言い換えると喉は、両側性の脳神経支配であるということです。

このことにより嚥下反射、嘔吐反射があれば、誤嚥の心配が減るということがいえます。

さて、ではどのような病名の時にはどのような
状態で、嚥下訓練をしてもいいのかどうなのか?
簡単に書いてしまえば次のようになります。



片麻痺(一側性大脳病変)は嚥下訓練してもOK
(ただし感情失禁のある場合には注意が必要。)


脳幹麻痺(球麻痺)嚥下中枢がある脳幹の麻痺。
嚥下反射が傷害されているので
必ず経管栄養である。誤嚥する可能性が高いので
経口摂取は禁止。

交代性片麻痺、、、、顔面は右麻痺その他は左麻痺
というような場合、誤嚥の心配はなし。
嚥下訓練していくべきである。

両側性片麻痺(多発性脳梗塞)
中心に近い部分でおこるとこれを仮性球麻痺という。
普通の両側性片麻痺は心配なく嚥下訓練できるが
仮性球麻痺の場合は、基本的に嚥下反射は障害されていないにもかかわらず
誤嚥することがよくある為注意見守りが必要。

その他痴呆の場合など。

食事は認知行動からはじまる。
痴呆の人は気配で生きている。その他失語症、
失認、失行など、それぞれの病態にあわせた
嚥下訓練が必要。


さて、それから実地の話になるんですが
ここから先はそれぞれ個別の対応という事で、
簡単に書きにくいです。

重要なことは姿勢から、その他嚥下食やらなんやらの事
いろいろ加味しながらやっていかなくてはいけないということでした。
嚥下訓練が出来ない人にももちろん口腔ケアについては
必ずやって行かなくてはいけない
ということは言っておられました。



感想

僕も前の診療所では、嚥下訓練や、口腔ケアに関しては
かなり日常的にやってきましたが、体系ずけて話を聞いたのは初めてだったので
とても参考になりました。

そのときにVFというものが必ず必要なんだ
と考えていましたが、それは必ずしも必要なものではない
ということを聞けただけでも良かったと感じています。
これからそういう患者さんを診る機会が増えるのかどうかわかりませんが
こういった仕事は増やしていきたいなと感じています。


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